■METライブビューイング「ファウスト」
[2012年1月20日(金) 新宿ピカデリー]
今年に入ってから2本目のMETライブビューイングは、
グノーの「ファウスト」。
演出は、デス・マッカナフ。
時代を二つの世界大戦の間にし、
ファウスト博士は原爆の開発者という設定。
ファウストといえばゲーテの名作だけに、
この演出上の読み替えに、はじめはどうなることやらと心配したが、
とても丁寧に演出されたプロダクションで、最後まで違和感なく鑑賞できた。
ファウスト、メフィストフェレス、マルガレーテの三人の主要人物のうち、
マルガレーテの顔を各幕の冒頭に映像で大写しし、
彼女の心の変化を軸にドラマを演出している。
METの客席からではなく、映画館で鑑賞する演技ということもあるだろうが、
劇中のマルガレーテの表情や、昇天していくときの毅然とした顔つきなどにも、
演出家のこだわりが見てとれた。
ファウスト博士は、ヨナス・カウフマン。
老博士のときの声と演技も見事だったが、
やはり何と言っても、若さを得たファウスト青年の力強く張りのあるテノールは流石。
Bravo!
メフィストフェレスはルネ・パーペ。
目の表情や体全体から発散される「悪」の色気が見事。
Bravo!
マルガレーテはマリーナ・ポプラフスカヤ。
正直言って、あまり好きな顔立ちの人ではないのだが、
今回は、「私は美人でもお嬢様でもない」と歌う、その外見が、
マルガレーテの悲劇と時代設定にマッチしていて、
こちらもBrava!
とにかく、この三者の歌唱と演技が見事でBravi!
ほかには、昨シーズンの「ニクソン・イン・チャイナ」で周恩来を演じていたバリトンのラッセル・ブローンが、マルガレーテの実直な兄ヴァレンティンを好演。
そして何よりも、大人数の合唱や助演が見事。
兵隊が戦争から戻ってくるシーンなど、単なる「凱旋」の場面にはせず、戦死した戦友の母親や、恋人(夫)の死を知って落胆する女などを群衆の中に細かく描き、戦争の残酷さや悲惨さをアピールいたのには感心。そして、音楽も単なる勇ましい凱旋の合唱ではなく、どこか重々しく翳りのある響きにしていたのも見事。
この「兵士の合唱」のシーン、思わず目頭が熱くなってしまった。
現代社会の中で、METという豪華なオペラの殿堂からでも、確信に満ちたメッセージは発信していかなければならない、という気魄のようなものが感じられ、感動的な場面だった。
指揮はカナダ人指揮者、ヤニック・ネゼ=セギャン。
陰影の変化と温かみある音楽をオーケストラから紡ぎだしていて、
こちらもBravo!
音楽にしろ演出にしろ、METのドラマ作りにおける総合力が結実したような見事なプロダクションでした!

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