2011年8月26日金曜日

本水のなか夏芝居見物

■八月花形歌舞伎「怪談乳房榎」
[2011年8月26日(金) 新橋演舞場]

まるで本水の立回りのような局地的豪雨のなか、
新橋演舞場に出かけて夏芝居見物。

勘太郎、七之助、獅童らによる
円朝の怪談噺をもとにした「怪談乳房榎」。

小悪党のうわばみ三次、朴訥な下男庄助、高名な絵師・菱川重信、
それに三遊亭円朝の四役を早替りで勤めた勘太郎。
父・勘三郎、祖父・先代勘三郎を彷彿とさせる口跡と身のこなしで、
あぁ、中村屋の芸風はしっかりと継承されているな、と感心感心。
うわばみ三次の小悪党ぶりが、見得で決まったときの切れ味といい、
目の表情といい、小気味よく見事。
それとの対象で、
下男庄助の田舎者ぶりも、
見ていてじれったくなく、さらりとしていて好感がもてる。
そして、早替りや本水立回りで、
まさしく夏芝居らしく、若々しく軽やかに熱演。

「悪人」磯貝浪江役の獅童は、
見た目は申し分ない色悪ぶりなんだが、
なんとなく「重心の高さ」みたいなものを感じてしまう箇所が・・・。
歌舞伎の世界は、体全体から立ち上ってくる古典的な風情が必須。
さらなる精進を期待したい。

一本目に、扇雀、橋之助による「宿の月」。
女は結婚すると強くなる・・・という夫婦関係を描いた
他愛のない舞踊劇。

夏の夜の、
さらりと楽しい歌舞伎見物でした。

2011年8月9日火曜日

国家による文化政策の怖さ


ナチス時代のドイツに、「ユダヤ人文化同盟」というのがあり、オーケストラやオペラ、演劇、講演などの文化芸術を展開していたのをご存じだろうか。
いわゆる「アーリア人」と、「ユダヤ人」を分離し、ユダヤ人によるユダヤ人のためだけの「文化政策」をナチス政権が展開したのだ。
国際社会に対しては、「ナチス・ドイツはユダヤ人を迫害なんかしてませんよ。その文化力を高く評価し、手厚く保護していますよ」というカモフラージュ効果のため。そして、ユダヤ人の多くの芸術家や市民も、いわれのない迫害の中で、この文化活動に生きていくための活力や心の慰めを求めていたという。
「強制収容所」や「ホロコースト」といった忌々しい歴史を知っている後世の我々にとってみれば、そんなのナチスのまやかしだ、早くお逃げなさい、ということは容易い。しかし、現在進行形で状況が変化していくドイツ国内にあっては、日々の生活に追われ、国外に亡命することなどかなわなかった人々も多くいたのも事実なのだ。

「交響曲・不滅」
マーティン・ゴールドスミス著(住友進:訳)
2002年 産業編集センター発行

この本は、たまたま図書館で見つけた。
父母が「ユダヤ人文化同盟オーケストラ」の団員だったアメリカ人によるルポルタージュ。
ナチスによって翻弄された両親や祖父母たちの「人生」が解き明かされていき、読み応えがある。
ぎりぎりまで「ドイツに残った」ユダヤ人の言動から、ナチスによる狂気の時代を見ることができる。

それにしても、この本を読みながら、国家による文化政策に潜む「怖ろしさ」がひしひしと伝わってきた。文化とか芸術というものは、国家や民族と切っても切れない関係にあるのも事実。だからこそ、芸術に携わる者は、心して「中立性」や「批評精神」を忘れてはいけないんじゃなかろうか。
御上からの助成金や補助金にばかり頼っている、どこぞの国の現状だって、かなり危険だと思うんだがなぁ・・・。

そうそう、この本、読み応えはあるんだけれど、誤字や誤記が多いのには参った。
ベルリン・フィルが「ベルリン交響楽団」だし・・・・。
文中の曜日だって、あれっ?っていう間違いをしている。
書籍として商品化する前に、もう少し細かくチェックしてほしかったな。
その点だけが残念!

2011年8月4日木曜日

若者たちによる王道プログラム

夏の定番、「寄せ集め」オーケストラの公演をもうひとつ。
“世界の若手音楽家を育成する国際教育音楽祭”PMFのオーケストラコンサートだ。
こちらは、「寄せ集め」というより、若手音楽家がオーディションを突破して参加しているので、「寄り集まり」とでもいうべきか・・・?

■PMFチャリティコンサート
[2011年8月4日(木) 東京オペラシティコンサートホール]

札幌での約ひと月にわたる日程の後、大阪と東京で行われた成果披露演奏会みたいなもの。
指揮は、ファビオ・ルイジ。
曲は、モーツァルト、ワーグナー、ブラームスという「王道」プログラム。

この日は、特別支援企業の野村グループ主催によるチャリティコンサート。
何がチャリティかというと、チケット収入の全額を東日本大震災で被災した子どもたちの教育支援に役立たせるとのこと。このように使用意図を明確にしたチャリティ企画は賛同できる。

演奏に関して一言コメント・・・

1曲目はモーツアルトのクラリネット協奏曲。
クラリネット独奏は、スティーヴン・ウィリアムソン。
メトロポリタン歌劇場の首席をつとめ、今秋のシーズンからシカゴ響の首席に就任するとか。
柔らかい音でフレーズを繊細に紡ぎだす独奏に触発されて、オーケストラも折り目正しい中にも活き活きとした音楽を奏でBravi!

2曲目は、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」から“前奏曲”と“愛の死”。
こういう官能的で爛熟した音楽で人を感動させるには、若者たちにはまだ早すぎるのかな?
一生懸命きっちりと演奏しようとはしているんだけど、一つ一つの音に込められているはずの「愛」とか「苦悩」とかが音楽になって伝わってこない。
でも考えてみたら、それでいいんだよ。
若者たちが、ワーグナーの官能美で人を感動させてしまったら、ある意味、大変だもん・・・。

休憩後は、ブラームスの交響曲第2番。
厚く温かみのある響きが、古典的な語法でしっかりと構築されているブラームスの音楽。アンサンブルを練れば練るだけ味も深く濃くなるだろうから、若手音楽家の“練成”にはうってつけの選曲かな。今年のPMFの若者たちも、なかなか健闘していました。
パート間の流れるようなフレーズの受け渡しとか、木管セクションのアンサンブルとか、まだまだ熟成には程遠い“若さ”は感じられたけど、丁寧で好感のもてる音楽づくりでしたよ。

でも、フィナーレのコーダでテンポを急に速めてオケを煽りたてたファビオ・ルイジの指揮は、個人的には「あれれ?・・・」という感じ。それまでの丁寧な音楽づくりが台無しになってしまって、最後だけお祭り騒ぎで終わってしまったかのよう。このコーダの中にも、“滋味”みたいなものが凝縮されているのだから、もう少ししっかりきちんと終わって欲しかったなぁ・・・。客席は沸いていたけど・・・。

客席は超満員。
やっぱりこういう活きのいい演奏会ってのは、いいねぇ。
若者たちにBravi!

2011年8月2日火曜日

元気になろうよ日本!

■チョン・ミョンフン指揮 アジア・フィルハーモニー管弦楽団
[2011年8月2日(火) サントリーホール]

いやぁ、実に久しぶりの演奏会。
猛暑の夏は、どうも「クラシック音楽」というものから距離をおきたくなってしまうんです。
で、日々聴く音楽とは、ジプシー・キングスとか、ジャズとか、イタリアのフォークロイックな音楽とか。
“クラシック”のジャンルだったとしても、ルネッサンス音楽とか・・・。
理由を聞かれても、なんとなく体と心が求めるから、としか言いようがない・・・。暑くなると赤ワインよりもキンキンに冷えた白ワインが飲みたくなるように、音楽に対する嗜好性にも自然と変化が出るものらしい。

で、久しぶりに出かけたのが、この演奏会。
オーケストラの定期や音楽大学がお休みになる夏の間は、こうした寄せ集めメンバーによる期間限定オーケストラの公演が多くなる。腕っこきの演奏家が集まっての、集中力の高い音楽を体験できるのでは・・・という期待感もあって、蝉しぐれの中、ホールに出かけてきました。

曲は、ベートーヴェンの7番とブラームスの1番という、交響曲の人気曲2曲。
ステーキとシチューみたいな重量級プログラムで、とても白ワイン気分じゃなかったけど・・・。

このオケ、常設ではなく、音楽監督のチョン・ミョンフンの許にはせ参じた韓国・日本・中国の音楽家による、まさにアジアの音楽家による合同オケ。メンバー表には、2日後の北京公演にのみ参加する奏者も含めて、総勢100名の名と所属オケが記載されており、チョン・ミョンフンが音楽監督をつとめるソウル・フィルの団員が圧倒的に多く39名。名前の表記がアルファベットなので、韓国人と中国人の区別がイマイチはっきりしないが、やはり韓国人の比率が大きい。それにしても、欧米の有名オケのメンバーもかなりいて、オーケストラという西洋文化の権化みたいな分野でアジアの音楽家の勢力が世界的に見ても大きくなってきたことが読み取れる。

そして何よりも、韓国がこうした音楽活動の「言いだしっぺ」となり、国際空港としても成田や羽田や関空なんかよりもダイナミックに機能している仁川(インチョン)市が支援しているという事実を舞台上に見ながら、「日本もしょうもない公的助成金なんかチマチマ出して、中途半端な芸術文化政策してる場合かよ!」などと考えてしまった。
クラシック音楽なんていう小さく狭い業界ばかりでなく、テレビをつければ韓流ドラマばかり、音楽はK-POPSが大流行・・・最近の日本は何事にもダイナミックさを失っているような気がしてしまうんだなぁ・・・。
チョン・ミョンフンがダイナミックに煽りたてるベートーヴェンとブラームスを聴きながら、日本が世界の東の果ての離れ小島になってしまったような、一抹の寂しさと焦燥感みたいなものを感じてしまいました。

そうそう、演奏会自体は、名曲ということもあるし、チョン・ミョンフン独特の節回しも全開で、大いに盛り上がって楽しめましたよ。
アンコールは、ベートーヴェンの5番の交響曲のフィナーレ!
たっぷりと肉料理の御馳走を堪能したという感じの一夜でした。

とにもかくにも、わが日本よ、もう少し元気になろうよ!