2010年11月14日日曜日

MET2本目はロシアの歴史劇

■METライブビューイング「ボリス・ゴドゥノフ」
[2010年11月13日(土) 新宿ピカデリー]

今シーズン2作目のMETライブビューイングは、プーシキン原作、ムソルグスキー作曲の「ボリス・ゴドゥノフ」。
今をときめくヴァレリー・ゲルギエフの指揮、スティーヴン・ワズワース演出による新プロダクション。
タイトル・ロールはルネ・パーペ。

メインキャストのほかに、120名の大合唱、40名の助演という大人数で、ロシアの歴史ドラマを重厚に描いていた。
このくらいの物量がないと、ロシア史劇のリアリティは出せない。
改めて、METの組織力に脱帽。

ルネ・パーペのボリス・ゴドゥノフ、堂々たる風格の中に、過去の過ちに対しておびえる一人の男の心の揺れが感じられて素晴らしかった。
が、それ以上に、権勢欲の強いポーランド貴族マリーナを演じたエカテリーナ・セメンチュックと、ある意味、このオペラの「視点」を代表する聖愚者を演じたアンドレイ・ポポフの二人が印象的。
セメンチュックは、かつて東京芸術劇場でエリアフ・インバル指揮フィルハーモニア管弦楽団でマーラー・チクルスを催したとき、「復活」のソリストで来日したメゾ・ソプラノ。あの時は、まだ若手ながら深みのある歌声で印象的だったが、今回は、女のしたたかさ、意地悪さを感じさせる堂々たる風格。声のニュアンス、目線の鋭さ、享楽にふけるポーランド貴族の中で権謀術数をめぐらすしたたかさが表現されていて素晴らしい存在感だった。
聖愚者のポポフは、姿形もいかにも浮浪僧といった雰囲気。その「狂気」の中に「真実」の視点が感じられて好演。

終幕、ボリス側の貴族たちを民衆がなぶるシーンは、壮絶・凄惨なものがあったが、抑圧された民衆の怒りが徹底的に表現された点では非常に効果的。オペラの冒頭で、ボリスの登場を歓迎する群衆の姿と対比させると、いつの世も民というものは移り気で無責任なものだと痛感してしまう。
それだからこそ、聖愚者の存在が必要になってくるのだろう。

ドイツ物、ロシア物と続いたMETライブビューイング。そろそろイタリア物を楽しみたくなってきた。

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