■スピノジ指揮、新日本フィル
[2010年6月4日(金) サントリーホール]
公演チラシの裏には、指揮者のヨーロッパでの演奏会評から「(指揮者)は古楽にナイトショー的スパイスを加えた」とある。ナイトショー???どんな仕掛けがあるのだろうか?ただただその興味から、ジャン=クリストフ・スピノジが指揮する新日本フィルの定期に出かけた。席はサントリーホールの2階RAブロック。指揮者の表情はもちろん、下手舞台袖からの出入りもよく見える。
予想に反して、オケは対向配置ではなく通常の配置。大きさは12型。
1曲目のモーツァルト「コジ・ファン・トゥッテ」序曲から、ノンビブラート奏法を基本とし、拍やテンポのメリハリを強調した生気あふれる音楽が展開。いわゆる古楽系のアプローチだが、妙に学究的になることなく「見て聞いて」楽しめる演奏だ。
続くメッツォ・ソプラノのリナート・シャハムを迎えての「フィガロ」と「コジ」からのアリアも然り。ソリストはオケの前のスペースを縦横に使い、動きの面でもアリアの世界を十分に「演出」して見せる。
「事故」はハイドンの交響曲83番「雌鶏」の第2楽章で起こった。弦の音を長くのばしてから、管が入るところで、指揮者のQと弦が一瞬ずれた。音楽の表情を強調したための一瞬の「事故」。コンマスの機転で音楽が崩壊せずに済んだが、久しぶりに味わう生の演奏会ならではのスリル。ナイトショーだとすれば、芸人がジャグリングの球を落としたようなものか。マエストロ・スピノジは、これで一気に「汗」が噴き出したのか、目に入った汗をしきりに手やジャケットで拭う。あいにくハンカチは持ってない。楽章が終わって、女性ヴァイオリン奏者からハンカチを借り、目に入った汗をぬぐっていた。
休憩時にはステマネが指揮台に白いハンカチを用意。登場したスピノジは、ハンカチの存在を確認し、客席にアピールし笑いを誘う茶目っ気ぶりも。
ロッシーニの序曲とアリアを表情豊かに演奏したあと、ラストはやはりハイドンの「熊」(交響曲第82番)。その終楽章がまさにサプライズ演出。これで終わりかとラストを盛り上げておいて、拍手のフライングをわざと誘う。(かく言う自分も不覚にもフライングしてしまった!)そしてもう一度フィナーレ。最後の和音は何度か繰り返す。客はもうフライングしたくないから拍手していいものかどうか一瞬のためらいが会場に充満。指揮者が客席を向いて、ああ本当に終わったんだ。と思いきや、オケがすかさずもう一発ジャン!指揮者もびっくり!ハイドンの交響曲だからこそできる「遊び」「見世物的効果」。こういうことに遭遇できるから演奏会通いはやめられない。そして、コンサートは「見て楽しむもの!」ということを改めて実感した一夜だった。
このスピノジという指揮者、まだ若くキャリアもほんの数年といったところか。これから欧米の音楽シーンで名前が挙がってくる人材だろう。
彼の演奏会はこの1回だけ。しかし、お試しとはいえ、彼との演奏会を実現させた新日本フィルの英断に拍手!

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